STAPに捧ぐ九階浄土の濁り酒

2014/4/11

4月に入って、理研の調査委が最終報告を出し、それに対して小保方晴子氏は不服を申し立て、反論の記者会見をした。

両者の主張は出そろったが、3月半ばに調査委の中間報告を聞いた時点でフォーサイトに猛老子が書いた上下の論考に、大きな「改ざん」が必要なほどの新事実が明示されたとは言い難い。

事態の新展開としては、理研が強引な幕引き、トカゲのしっぽ切りを急いだ結果、「しっぽの深情け」に火をつけてしまった、という皮肉な構図が見えてきたことだろう。

小保方氏の記者会見で強く感じたのは、「テレビ」と「関西」が同居すると、科学も政治も松竹新喜劇や吉本のお笑い枠にはまってしまうことだ。

新聞や通信社やフリーのジャーナリストは、少なくとも「真実」の断片でも得ようと、行為と結果=事実関係を質問していたが、関西のテレビ記者たちは、タレントの売り込みや番組宣伝と同じ手法で、小保方氏の「キャラクター」を際立たせるための、お約束の問いを繰り返す。「○○に対する今のお気持ちをお聞かせください……」

それを意図していたかどうかは判然としないが、司会の代理人弁護士が指すのは、「不勉強」で「未熟」な関西のテレビ記者がほとんどだった。時折、事実関係を問われて、女性研究者が答えに窮しても、次に来るお涙ちょうだいのテレビ質問が、それを救う。

関西のテレビジャーナリズムは、知事・市長・政党代表など、とにかくアタマが大好きな橋下氏の次には、切り捨てられそうなシッポ=「健気なリケジョ」に肩入れしようというのだろうか。

小保方氏は、STAP論文に改ざんとねつ造があると断じた調査委の結論を、「とても承服できません」とし、このままSTAP細胞の存在自体まで否定されることは、「到底容認できません」と述べている。

この法曹界独特の言い回しが、猛老子はとても気になっている。「到底容認することはできない」なんて、法廷以外の場所で聞くことはまずないだろう。耐え難い言いがかりに対しては、「許せん」と怒るか「ふざけるな」となじるのが、普通の反応ではないか。

法律家は、裏付ける明白な論拠や物証に乏しい中で、あえて強く主張したり、判断を下したりするときに、まるで舞台で大見得を切るように、もって回った大仰な言い回しを用いるのではないかと、かねて「邪推」している。

今回の小保方氏の会見で、わが邪推は、単なる「下司の勘ぐり」でもないと感じた。

小保方さんは、ねつ造と改ざんの認定に対する、明確な反証は何一つ示さなかった。真正な細胞画像が存在するなら、それを開示し、真正であることを裏付ける証拠を添えればいいのに、そこは完全にスルー。遺伝子画像の切り貼りは見やすくするための配慮だと言うに至っては、改ざんを自ら認めたに等しい。

科学的反論はゼロなのに、調査委のメンバー総入れ替えを求め、中に弁護士を半数以上入れろとまでいう。外部委員の手による調査を求める気持ちは理解できるが、弁護士を半数以上にする狙いは、理解不能である。

科学研究上の不正行為の有無とは違う、何か別の問題を調査する場面も想定してのことだろう、などという下司の勘ぐりを呼ぶことになりかねない。

ちょっとびっくりしたのは、会見に同席した室谷弁護士が、ねつ造とされたニセモノ細胞画像について、流用元が調査委の認定と違うので、捏造認定も間違いだと主張したことだ。

問題の写真は、研究室のミーティングなどで使われた小保方さんのパワーポイント画像から、誤って転用されたもので、小保方さんの学位論文から直接的に流用されたものではない、というのである。

実験の条件も、材料の細胞も全く違う、論文とは無関係の画像を、STAPの多能性を示す決定的な証拠写真として使ったという事実は棚に上げて、それが「孫引き」だったとか、「迂回融資」みたいなものだったから、無実だとは、噴飯ものの理屈ではないだろうか。

調査委の事実認定の過誤、杜撰さを突いたつもりだろうが、結果は逆ではないか。事実を追跡しにくくする孫引きや迂回融資は、行為の悪質性をさらに強く印象付けるだけで、「うっかりミス」で通そうとしている小保方さんにとっては、百害あって一利もないように思えるのだが……。

もうひとつ強く印象に残っているのは、小保方さんが論文の撤回には応じないと明言したことだ。

科学界で一応の名声を得てきた共著者のシニア研究者にとっては、科学的良心に基づく、自主的な撤回が、かろうじて名誉を保つ生命線である。

彼らと理研が最も恐れるのは、NATURE誌の側が、論文に不正ありと断じて、著者らの意思とは無関係に、掲載を撤回してしまうケースだ。研究者個人と、研究組織の理研が被る痛手は計り知れない。国際的な信用失墜は、より決定的になる。

現在の身分保障と、次への展開を模索して、理研との困難な交渉を続けることになる小保方さんにとって、論文撤回と言う人質は、またとないバーゲニングパワーとなる。簡単に撤回に応じるはずはないし、応じたとしたら、なにがしかの「手打ち」があったと見るべきだろう。

あまりに拙い記述と粗雑な論理展開で、細胞生物学の歴史を愚弄するとして却下された論文を、何とか掲載可能な論理展開と緻密な記述に仕立て上げた指導者、笹井芳樹・理研副センター長が、近く会見し、STAP現象はあると強調すると聞く。是非、物証をきちんと示していただきたい。

その存在を証明する唯一の科学上の手がかりである論文に不正があって、笹井氏も撤回に同意している以上、STAP現象は科学的にはただの仮説、研究者個人の思いつき、あるいは妄想に過ぎないことになる。

不正でない論文でそれを証明して、世界の研究者に真偽を問うことができるまで待たずに、「それでもSTAPは存在する」などと主張するのは、科学者としていささか情緒的に過ぎるのではないだろうか。

国家戦略と科学、法曹と科学など、よだれが出そうな面白ネタが転がっているのに、退職ブンヤは、引き籠ってぶつぶつと。

9階浄土でバルコニーの山吹とリンゴの花を愛でつつ、毒づく言葉だけをそっと磨いて、それを肴に盃を傾けるのみ。春憂もまた佳肴なり。

ここまでお付き合いいただき深謝。

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