酔眼猛老 その4「売り家と書く三代目〜太郎篇〜」

2013/8/21

「唐様で売り家と書く三代目」――大店(おおだな)のあっけない倒産劇を軽妙かつ痛烈に皮肉ったこの江戸川柳が、近ごろ頭にこびりついて離れない。

創業者が才覚で築いた大店を、二代目が地道に守り育てても、苦労知らずのボンボン三代目は、いともたやすくつぶしてしまう。

経営の才はからっきしだが、お金をかけて習い覚えた三代目の筆の運びは、庶民の金釘流とは一味違う唐様(からよう)の本格派。身代をつぶして、泣く泣く家を手放し、自ら筆をとって「売り家」と書いたその文字の、優美な趣が哀れを誘うという図である。

麻生副総理の「改憲はナチスに学べ」発言を聞いて、こんな下手クソなパロディが思い浮かんだ。

「空脳(からのう)で国貶める三代目」
麻生太郎さんは、三代目の政治家(吉田茂の孫)にしては驚くほど貧弱な歴史知識と、副総理という要職にある政治家としては信じがたいほど粗雑な思考回路を、内外に披歴してしまった。

秘すれば花。きいたふうな口、俗論の受け売りを慎めば、お気楽三代目にも、それなりの存在感はある。トレンチコートの襟を立て、帽子を少し斜めにのせて、ハンフリー・ボガードを気取っているだけなら、非難や嘲笑を浴びることはまずない。

しかし、憲法を骨抜きにするにはナチスの手口を学べ、と公言した以上、政治の表舞台からの退場が国際社会の常識だろう。20世紀に人類が得た最大の政治的財産、ファシズムの徹底排除を、稚拙な暴言で完全否定してしまったのだから。日本という国の品格を、ここまで貶めた政治家を私は他に知らない。

麻生さんは「ナチスを引き合いに出した部分が誤解を招いた」と部分的に訂正したが、「真意はナチスの肯定ではない」とも言い張っている。彼が唐様で、「辞職」とか「引退」などと書くのを、ちょっと楽しみにしていたのだが、三代目同士のお仲間、安倍総理にもそれを促す気配は毛筋もない。

失言や暴言を吐いた有名人が、謝るときに異口同音に発する「誤解を招いたことをお詫びする」というフレーズに、いつも引っかかる。武士道の国とも思えない卑怯未練な言い回し、潔さは微塵もない。誤解して騒いだ世間が悪い、とうそぶいているに等しい。

文化芸術の分野では、財力と見識のあるパトロネージュの存在感は大きい。パリに集った画家や詩人も、街道を旅した日本の文人墨客も、貴族、殿様、名主、豪商の後ろ盾によって、その才をはぐくんだのは間違いない。

麻生さんも、あまり得意とは思えない言葉の格闘技、政治の舞台からは早々に退いて、お好きなアニメなどクールな日本文化のパトロンに専念してはいかがだろうか。元総理の看板はパトロン業界でこそ、輝くような気がする。

少なくとも、彼が副総理を続けるよりは、日本の国益が損なわれ、日本の品格が貶められるリスクは、はるかに減るだろう。

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